エンドロールには早すぎる

ドラマ、映画、ゲーム、本、音楽。【創作】に触れて感じたことをありのままにメモすることを常に目的としています。

『高い城の男』S1感想。レトロ・フューチャーの素晴らしき世界とそこに溜まった澱

第二次世界大戦でもしナチス大日本帝国が勝っていたら?
その手合いの作品がコレ。『高い城の男』はAmazonPrimeVideoの限定配信ドラマで、歴史上でも屈指のIF世界を提示する。
世界はもうドイツと日本の意向を無視してまわることはできず、アメリカの領土はブレッドを切り分けるかのように分割されている。善良なるアメリカ国民は、抑圧されて日々を過ごしている。そういう世界だ。主人公は、その世界を変えられるかという戦いに身を投じることになるのだが…

――↓ネタバレなし↓――

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↑トレーラー。

まず映像が良い。
レトロな風景。クラシカルな小物。IF世界が舞台なだけはある。そういったものに溢れた独特の世界観を見せられる。照明は明るすぎず、異文化混じり合った独特の景観が幻想的な気分に浸らせてくれる。
これはこのドラマの最大の「美」だ。見ていて、飽きない。この世界のことがもっと知りたくなる。

とはいえ連続ドラマにおいて大切なのはキャラクターだ。ろくでもないキャラクターばかりなら、他がいかに素晴らしくてもどこかで萎えてしまう。
主人公は中年女性で、後先を考えずに行動してしまうタイプだ。最初はまだいいが、話が進むにつれて、そろそろブレーキをかけてほしいと誰もが思うことになる。運転で言ったら、だいぶ横着なドライバーだ。公道を走ってほしくない。だがまぁ、そこは大目に見なくてはならない。彼女が主人公であることは変えられない。
スミスというナチスの上官などはなかなか興味深い人物だ。彼のことはもっと知りたくなる。自分に正義がある、自分のやってきたことには意味がある、自分の任務は世界を幸せにするためにある、と信じてはいるものの、もちろんそれは歪んでいる。だが彼をナチスのクソ野郎と一言で切り捨てられないのも事実だ。職務に忠実で、家族には愛情をもって接し、ナチスでさえなければ…みたいなキャラクターに仕上がっている。だがそれが魅力だ。彼のような魅力的なキャラクターがいると、もっとドラマの続きを見ようという動機が強まる。


――↓ネタバレあり。注意↓――

誰か彼女を止めてもらえませんか?

本作の主人公のジュリアナは、明らかに周囲に不幸を振りまいている。
大局的な視点で見れば、今後ジュリアナが大きな花火を打ち上げてくれることは間違いない。ただし、S1での彼女の行動は、主人公としてはあまりにもおぼつかないものだった。かわいいからって何をしても許されるのか!?
彼氏のフランクを絶望のどん底に叩き落した件では、不快ではあるものの、まだ、仕方のないことだ、彼女はあまり責められない、という立場でいられる。
彼の妹と姪と甥は殺された。理由は彼が、重要なアイテムを保持したジュリアナの行き先を憲兵隊に教えるのを拒んだから。これは不幸な事件だった。実際に何が3人を殺したか? ガス? 木戸警部? 日本? ジュリアナの情報開示を拒んだフランク? あるいはジュリアナ? どれもそうだ。いずれにしても、彼女の行動は少しばかり、軽率だった。日本が血眼になって追っているフィルムを持つ彼女が行方知れずとなれば、同棲してるフランクに危険が及ぶのは誰だってわかる。フランクも奇跡的に助かってはいるが、本来なら殺されていた。フランクが一命をとりとめたのも、別にジュリアナのおかげというわけではない。それは偶然だった。秤が不幸に傾きすぎなかっただけだ。物語の序盤で、主人公はまだ自分のことしか頭にない子供だった。この一件で、フランクは日本に復讐を誓うようになる。そしてジュリアナからしたら、自分の行動が不幸を招きかねないというわかりやすい教訓になるはずだった。
しかしジュリアナは……学ばなかった。

ジョーに言いくるめられてレジスタンスを裏切った。いや、気持ちはわかる。ジョーが良い奴なのは間違いないし、彼にジュリアナを守る意思があることも。本能に従えば、殺せるわけがねえ。だがジュリアナは経験から、この世界では権力がどれだけものを言うのか、理解しているはずだ。そもそも、そうでなければ彼女の行動の動機を失う。フィルムすら奪回できない。それでいいのか! 当然よくない。これでは彼女の大義名分は失われ、全てを台無しにしている。
フランクたちだけが彼女に振り回されてはいない。
俺も彼女に振り回されている。
一体これからどうなってしまうのか?
彼女のふらついた運転で、どこへ向かうのか?

それにしても脇キャラが魅力的だ。
先述したがスミスが面白い。恐ろしく有能な男だが、可哀想な部分もある。話の後半になると、息子が筋ジストロフィーだと判明する。病気系はやめろ。まず絶対に泣く。しかも病気がじわじわ進むタイプだから、俺はもう駄目だ。観る前にそういう雰囲気があるなら警戒もできる。だが既にドラマに夢中になっていて逃げられない。俺は罠にかかったネズミのようなものだ。奇跡的に治るということは考えられず、スミスがどういう選択をするのか、俺は固唾を飲んで見守ることになる。

AmazonPrimeVideo限定配信ドラマも質が高くて面白いものが本当に増えている。
まあこれは結構前からのスタートで、シーズン3まで今はあるけど。マーベラス・ミセス・メイゼルやジャックライアンもそのうち感想書きます。
高い城の男、面白いです。

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