エンドロールには早すぎる

ドラマや映画やゲーム。どうしてそれが面白いのかを考察します。

シェフのテーブル S5 感想

土曜の昼。俺はマクドナルドのハンバーガーを食べながら、テレビを点け、シェフのテーブルを見る。
俺の大好きなシェフのテーブルというNetflixの番組が9月28日、更新された。
シーズン4(甘味篇)が今年の4月に更新されたばっかりだってのに、もうシーズン5の更新だ。うれしい。ただし、特集されるのは6名ではなく4名。
それでもシーズン6の更新が2019年に既に決まっており、特集される面々も発表されている。

youtu.be

このドキュメンタリーにネタバレもなにもないのでただ感想を綴っていく、

シーズン5のメンツは以下の通りだ。


一人目 クリスティーナ・マルティネス
拠点:フィラデルフィア『South Philly Barbacoa』
メキシコ、カプルウアクにルーツを持つ移民のシェフ。
彼女は最初、不法滞在者だった。密入国斡旋業者の手を借り、体力をつけ、砂漠を渡り、命懸けで国境を越えた。
亡命には成功したが、今度は娘の学費のために仕送りをしなくてはいけない。仕事が必要だった。そして運良くレストランに雇われた。英語もわからないクリスティーナは困難を感じつつも地道に努力を重ね地位を作り上げていく。
アメリカ人の彼氏もできて、順風満帆か? ……といえばそうでもない。たとえアメリカ人と結婚しても、砂漠を渡って不法入国してきたメキシコ人にはなかなかグリーンカードアメリカ合衆国の外国人永住権)をもらえない。面倒を避けたいレストランのオーナーから、とうとう解雇を告げられる。
受け入れられていなかったと気付き、絶望し、路頭に迷い始める。だが強い人間は立ち上がるのがはやい。クリスティーナが新たに始めたのは、自分たちの住んでる小さなアパートで地元の人間に料理を提供することだった。これは違法なことなので、夫はハラハラし始めた。店を持つ必要を感じていた。そして彼は首尾良く店を調達した。
開かれた店South Philly Barbacoaは、評価される店となった。ここで食事をすれば移民なら誰もが共有する思いがあるという……

バルバッコアという料理の作られる過程が少し紹介されていたが半端じゃない手間がかかる。料理が閉じ込められた釜はまさに魔女の大釜という感じだ。こりゃすげえわ。
ちなみにシェフのテーブルで特集するレストランにしてはとても安価で食べられるらしい。トリップアドバイザーによると10ドル未満のメニューもあるようだ。話によると、バルバッコアは非常に本格的で、食べればメキシコを思い出すことができるとのこと。
シェフのテーブルは、シーズン1の頃はマキシモ・ボットゥーラをはじめとする世界的な高級レストランのシェフばかり特集していた。いやもちろん結構なことだ。とても面白い。世界の違いに圧倒される。しかし近頃は少し趣向を変えた取り組みもしている。韓国の山奥に住む僧侶や、ラーメン屋のアメリカ人店主など、異質な経歴を持つシェフも取り上げ始めている。悪くない傾向だ。みんな大好き「世界のベストレストラン50」とかそういうのに載っていない店・シェフに力がない、ストーリーがないわけじゃない。まあクリスティーナ・マルティネスも2016年度アメリカの女性シェフ10傑に選ばれてはいるが。


二人目 ムサ・ダグデヴィレン
拠点:イスタンブール『Çiya』
”食の考古学者”とは誰が言い始めたか。だがそれが彼の代名詞だ。ムサは40を超える村を訪れ現地の知られざる料理を吸収し、記録に取り、伝統に敬意を表してきた。彼のやりたいことは伝統を表現することだ。彼の店では実に多様なメニューが提供される。
そもそも、文明の歴史から言えば、トルコには面白いレシピが山ほどあるのは明らかだ。何故なら古くから文明の交流地だったから。クルド人の料理。スンニ派の店。だがムサは民族や信条で料理をジャンル分けするのを嫌う。対立を生むからだ。
実際、彼はその対立を経験してきた。軍のクーデターが起こったとき、この多様性に満ちた都市イスタンブールでは民族・信条の対立が起きた。それは食の世界にも波及した。クルド人の料理を好んで食べる人間が、スンニ派の店というだけでその店の料理を拒絶することはざらにあった。あまりの状況にムサは嫌気がさしていた。
だからムサは全てをまとめることにした。全て自分のものにしてしまった。トルコの魅力的なメニューを、ムサは全て知りたがり、作りたがった。
トルコの若い料理人は、料理学校を卒業するとみんなフレンチを作りたがる。そういうものだと思い込んでいたからだ。だがムサが現れて状況が変わり始めた。ムサによりトルコの料理の誇りが取り戻され、若者はレシピの秘密を知りたがるようになった。良い傾向だ。遠くの国も魅力かもしれないが、地元の歴史にリスペクトを表すのが最善だと考えられている。ま、実際、どいつもこいつも西欧化(ウェスタナイゼーション)なんてマジで世界の終わりだと思うよ。

トルコ料理が圧倒的な映像で次々と映し出されると俺は悔し涙を流した。俺はトルコ料理を食べたことがろくにない。ケバブを少しとかそんくらいだ。まあそんな事言ったらまともな日本料理も食べたことないしまともな中華料理も食べたことないけど。好物はマクドナルドのハンバーガーとカップラーメンという有り様だし。でも最近触発されて色々料理してるから、いつかはちゃんと食に通じたいな。
それにしても村々を訪ねて料理を教えてもらうって凄いバイタリティーだよなぁ。羨ましい。目的のある旅がしたい……


三人目 ボウ・ソンヴィサヴァ
拠点:バンコク『Bo.lan』
タイ料理のハイエンドを提供するボラン(「Asia's 50 best restaurants 2018」では第37位)を営むタイ最高のシェフ、ボウ。とても我が強そうだ。客に合わせてメニューを変えるような腑抜けたことはしない。自分の信じる道を行く。
彼女は産業化された食材が市場を席捲し、本物の食材がタイから失われつつあると説く。市場で食材を探しても、パッとするものはない。店員は食材の産地や調理法も満足に答えられない。タイでいいものを手に入れようと思ったら輸入品に頼らねばならないのか? ボウは闘わなければならないと感じた。
そして彼女はタイで正しい活動をしている農家と、直接、取引することにした。化学肥料を使わないオーガニックな食材。それが求める食材だ。例えばパームシュガーを採るのに今時の農家は週に2回しか木に登らないらしい。産業化されているからだ。だがボウの取引相手は毎日2回木に登る。大変だが、いいものができる。本物の味ができあがる。
二人目のムサとも似たようなテーマだがやっぱり「地元の誇り」を持つことは大事だ。タイ人にとって外食とは「フレンチ」「イタリアン」「中華」。「タイ料理」だって? そんなのは家で食べるよ! 家の味が一番なんだ! This is タイランド。まあこれは日本人も共感できるだろう。なぜお袋の味を外食で求めねばならない? といった感じだ。ボウがタイ人に蔓延るその考え方を変えはじめた。
何故か? 化学肥料にまみれた食品が並ぶようになった世の中。伝統が失われつつある社会の中で、彼女の店では本物が味わえるからだ。

いやーっ、タイってすげえよなぁ。当たり前だが。古代からあの辺は文明が栄えている。正直よく知らんけど。まあでもスコータイ朝とかアユタヤ朝とかあったじゃん? タイは過小評価されてる気がする。まあいいや。文明の繁栄は食の繁栄と密接につながってる。タイが美食の都なのは当然のことってわけだ。
俺はまだバンコクに行ったことはないが、いつか必ず行く。これは間違いない。タイで経験する「食」が凄く楽しみだ。まあ、ボランのような高級店で食べられるかどうかはその時の俺次第だな。


四人目 アルベルト・アドリア
拠点:バルセロナ『Tickets』
おっと、大物がきたな。まあシェフのテーブルで取り上げるのは大物ばかりではあるが。とは言えアルベルトはシーズン5では間違いなく一番の大物シェフだろう。
アルベルトの運営するレストラン『Tickets』は「The World’s 50 Best Restaurants 2018」で32位の順位につけている。彼は喜ばないだろうが、アルベルトは、伝説のレストラン、あのエル・ブリのオーナーの「弟」だ。
エル・ブリとは? イギリスの雑誌『レストラン』において5度の世界一のレストランに選ばれており、約50席しかないシートに世界中から年間200万件もの予約希望が殺到し、「世界一予約が取れないレストラン」と呼ばれていた。ウィキペディアより引用)
エル・ブリではデザートを任されていた。創意工夫に満ちた数々の品を見ると、彼は甘味篇に出ていてもおかしくなかった。だがエル・ブリはもう閉店していて、アルベルトは『Tickets』を開いた。今度は正真正銘自分の店だ。兄の付け入る余地はない。アルベルトの洞窟だ。
常に「フェランの弟」として見られているアルベルト。シェフのテーブルの取材の前日にも思い知らされる出来事があったらしい。スペインの最大手の新聞の見出しに「フェランとその弟が――」という具合だ。名前すらあげてもらえない。一流で、革命を起こして、成し遂げてきたシェフなのに……兄は尊敬してるし自分は社交的なタイプではないが、認められすらしないのか? 自分は忘れられてはいないか……? だから彼の夢は終わらない。彼はもっと、成し遂げるだろう。

なんというかテーマパークのような店だなと映像を見て思った。まあ実際それがテーマらしい。彼の店は「体験」を提供する。彼の料理には驚きしかない。クリスピーオクトパス? なんぞこれ!? ってなるでしょ。
こんなところで食事したら一生の思い出になるに違いない。庶民的な想像だがそう決めつけるしかない。この店は相当凄いわ。まあ……このドキュメンタリーを見るたびに思うが、こういう店に気軽に行ける人間じゃないというのが悔しいハナシだは(涙)



このシリーズは安定してる。一生続けてもらいたい番組。
本当は4Kの設定にしてみたいところだ。凄く映像にこだわってる番組だから。
でもNetflixは4K高いんだよね値段。しかも最近値上げしたしね……

シェフのテーブルではシェフだけを神格化することは決してない。今、業界で重要視されているのはシェフの腕前だけではない。
どんな信念を持って仕事しているか? 社会的な活動は? どこから食材を卸してる? 安全性は? 多様性は? 伝統は? 様々な視点からテーマを投げかける。
シェフそれぞれのこだわりや、シェフの周りの環境、育ってきた土地……そういったものが最高級の映像で暴かれる。
シーズン1第1話で取り上げられたマキシモ・ボットゥーラがいい例だ。今や彼は地位を得て、名声を欲しいがままにしている世界一の料理人だが、日本人に訊いても1割も知らなそうなモデナというイタリアの小さな町で育ち、今もそこに店を構えてる。彼は信念がハッキリしてて食材にこだわり伝統に敬意を表しつつも革新的な挑戦をいとわない。
無料食堂を開いたり、何なり、社会的活動もバッチリだ。彼については彼だけで一本の映画『ライフ・イズ・シネマ』が作られているため、それを見ると理解が深まる。まあとにかく腕前以外に何か持ち味があると、シェフのテーブルの制作陣が取り上げてくれる確率が高まるってわけだ。
シェフは多くを要求される時代になり、かつてないほどの注目が集まっている。それが何故か、シェフのテーブルを見ればわかってくるかもしれない。

シーズン6も楽しみです。
アフリカ系アメリカ人女性シェフやイギリス人が初めて取り上げられる。2019年のいつかという話だが、半年後くらいには見たいもんだね。