エンドロールには早すぎる

ドラマや映画やゲーム。どうしてそれが面白いのかを考察します。

【傑作】American Vandal ハノーバー高校落書き事件簿 感想

このブログを開設した主な理由は、傑作を楽しんだ後に記録しないのは数年後の自分が後悔することがわかってきたからである。
だが俺がその重い腰をあげることはなかった。まずめんどくさいし、確固たる基準のない自分の”評価”なんてクソだ、と知っているから。
その俺を突き動かしたきっかけ? 実に些細なものだ。Netflixオリジナルシリーズの「American Vandal(邦題:ハノーバー高校落書き事件簿)」のシーズン2のリリースが、残り一週間に迫ってるっていうのに、ググっても日本語の情報一つ出てこない。はぁ? って思うだろ? 俺はTwitterとかインスタグラムとかそういうソーシャルメディアをほぼ利用してないので、グーグルの検索結果だけが俺の世界になる。こういう誰とも話題を共有できないという悔しさ、この悔しさをぶつけられる何かを探して、そうだブログを書こうと思い至ったわけだ。

俺は”通”ではない。俺の感想は大衆と似ているかもしれないし全然違うかもしれない。間違っているかもしれないし、後から考えが変わるかもしれない。
自分にも”柔軟さ”が大切だと言い聞かせて、その作品がどうして俺の中で傑作なのか? どうして記事にするほど心を突き動かされたのか? というのを考察していこうと思う。

さて、というわけで今日は、このきっかけに縁あり、ってことで、American Vandalのシーズン1の感想を記録していく。

ちなみにネタバレはする。なぜこれから作品を考察するって時に、心を揺さぶる局面のことをひた隠しにしてしまわねばならない?
とは言え、そんな事を抜かしていては、せっかく訪問してくれた人に失礼だ。いちおう全世界公開だからな。
こんな辺境の小さな小さなブログに、作品を観てない人がたどり着く可能性があるとは思えないが、万が一の為に、ネタバレしないでほしい勢のために、簡単な紹介と評価を用意しておいた。
これから観る人は参考にするのもいいが、俺の基準はメチャクチャなのであまり信用しないことだ。

――↓ネタバレしてない↓――

youtu.be

↑American Vandalのトレーラーだ。
この時点で心を惹かれる。

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全8話で1話20分程度という手軽なシリーズ。
とっても面白い。ネタバレしない範囲で紹介しよう。

「君のことを教えて」
「俺のこと? なんだよそれ、馬鹿げた質問だな」

どこにでもいそうな高校生のガキや教員たち。しょうもない事件。俺はウイスキー片手に鑑賞し始める。
しょうもない事件なのに、殺人事件でも起こったかのような深刻な雰囲気で調査が進んでいく。俺は釘づけになる。
”真実を究明”していくたびに、事態はどんどん複雑になっていく。予想外の手がかりが出てきたり、若者たちのリアルな日常が撮影されたりする。その中で暴く必要のない秘密まで暴く。傷つかなくていい人が傷つく。俺は、もう完全にこの世界の一員になっている。
生きていくうえで大切なメッセージが随所に込められていて、そのたびに俺はハッとさせられる。俺はウイスキーを流し込み、食道を荒らす。俺は泣く。
全8話の旅を終え、俺は震える。
面白すぎると言って一人で部屋ではしゃぐ。
ああこれは傑作だ。どうしてこんなに面白いんだろう???


――↓ネタバレしてる。注意されたし↓――


まず、俺が、ドラマとか作品とかで何を一番大切にして観ているかを明かそう。
キャラだ。
キャラが魅力的かどうかに尽きる。
このキャラの活躍が見たい、どうなっていくのかを見てみたい、そういうモチベーションで、テレビドラマっていうのは見続けられる。
だから俺がわざわざ記事にして語るのは、キャラが中心になる。

さて、American Vandalではどういうキャラが動いているのかを紹介しよう。
まずこの二人に着目しておけ。ピーター・マルドナードという陰キャっぽいメガネ(一応主人公)と、ディラン・マクスウェルというヤンキーっぽい社会不適合者だ。
こいつらの動きを追っておけば、話についていける。こいつらが話の"肝"だ。脇キャラが非常に素晴らしいドラマなので、心を揺さぶるキャラクターは他にもいるが、こいつらが主に話を作る。

ディランはヤンキーだ。悪い事が起これば大体こいつのせいにされる。実際こいつはとんでもない悪童で、人々を困らせることで悪名高い。
「一日一チ○コ」がモットーで至る所に落書きをする。親と手を繋いでる子供に屁をかまして逃げる。しかもそれを動画にして全世界に晒すという湿気たYoutuberだ。退学して配達員に就職するのはいいものの、客に届ける食いもんを遠慮なしに食らっちまうというキングオブヤンキーだ。
こいつが巻き込まれたのは、「教員の車全てにチ○コのラクガキが書き込まれる」という、しょうもないものだ。だがしょうもないものでも、被害総額は何万ドルにもなる、立派な犯罪だ。
普段の素行が悪いので、ヤンキーは即・犯人扱いされる。おっと、ここで慌てて雑な脚本だと批判するべきではない。確かかどうかはおいておいて、もっともな理由が何個もあるのだ。
普段からチ○コの落書きをしてる、ってだけじゃない。犯行時刻のアリバイがヤンキーにはない。防犯カメラの記録がいじられているが、ヤンキーは記録をいじる権限を持つ”放送委員”の一人だ。そして決定的なのが、”優等生”アレックスの「彼がそこにいた」発言。目撃者がいるのだ。材料は十分そろっていたので、教育委員会は彼を退学処分に決めた。
そしてヤンキーは退学した。初めは自由だと逆に喜んだが、大学進学への道は閉ざされ、弁償金などの支払いのために時給10ドルで毎日あくせくと働くハメになった。徐々に孤独感を強めていき、彼女には見放されつつあると感じている。

そこでヤンキーに不思議な縁を持つキャラ、陰キャメガネ・ピーターくんだ。メガネはヤンキーと同じ”放送委員”の一員だったのだ。
メガネには日頃から、「映画をつくりたい」という欲求があり、実際に制作しているが、動画サイトでの評判はからっきしだ(この点もヤンキーと共通している)。そんな彼が、目の前に降って注いだ”面白い事件”というチャンスを見逃すわけがなかった。「真実を明かしたいだけ」ときれいごとを並べながら、メガネはドキュメンタリー制作に取り掛かる。
彼は友人のサムと一緒にホワイトボードにペタペタ写真を張りペンで相関図を書きながら、真実を検討していく。メガネは、ヤンキーの無実を証明できる側面もあると信じているのだ。
彼の鮮やかな推理を紹介しよう。ヤンキーは普段からチ○コの落書きをしているが、普段描いているチ○コと今回描かれたチ○コの形が違うことを発見した。次に犯行推定時刻の件を考えた。聞き込みと、移動時間や落書きする時間、カメラをいじる時間にどれくらいかかるかを実際に検証して、ヤンキーの犯行時刻のアリバイを立てた。彼にそんな暇はなかったと結論付けたのだ。しかもヤンキーは底なしの馬鹿なので、防犯カメラの映像なんて消せないと弁護した。そして決定的となった目撃者、優等生アレックス。彼の発言は実際どれくらい信用できるのかを確認した。彼はパーティでビールを9本も飲んだと自慢している。彼は同級生が病気で早世した際にSNSで親友であったかのように呟き、他の生徒に咎められている。彼の言動を知れば知るほど、彼が目立ちたがりの”誇張屋”という印象が強くなる。……何よりも、イケてる度13点くらいのアレックスが、高校で最高クラスのイケてる度97点の美少女・サラに、手で抜いてもらったとまで吹聴している。もしかしたら、この優等生の証言は信用できないのではないか? 実はハノーバー高校では、「チ○コ落書き事件」が発生した影響で、副校長により昼食を外で食べるのを禁止されてしまっていた。この禁止は、誰かが「有効な証言」をしなければ解除されない。そして禁止から3日後、アレックスは”証言”した。アレックスはハノーバー高校にランチを取り戻した。この証言で一躍”時の人”になり、SNSのフォロワーを増やした。だがこれは、アレックスが人気取りのために嘘の告発をしたかもしれないのだ。

下線で引いた論点を軸にしてドラマが進んでいくわけだが、物事がそう単純に終わるわけがなかった。登場人物はどいつもこいつも一癖二癖あり、リアリティがあり、とにかく優れているのだ。
輝いている脇キャラを紹介する。

「MY CAVE, MY RULES」がモットーの歴史教師は、生徒がセクシーすぎるという発言をして、その姿がドキュメンタリーとして世界に公開されたので、問題になり、作中で”退職”する。メガネの”自己満映画制作”の割を喰ってしまった可哀想なキャラの一人だ。
メガネの始めたこと、すなわちジャーナリズムは、現実世界にいかに影響を及ぼすか? というこの作品のテーマの一つをリアルに感じるキャラの一人になっている。
彼はナイスガイだ。生徒に人気でありたいという欲求があからさまだという見方を大半の生徒がしている悲しいキャラだが、まあ良い奴だ。俺は自分のルールで生きてるぜとでも言いたげな振る舞いだが、気取ってる感が暑苦しいので、現実の日本にいても人気はいまひとつだろう。

ヤンキーから目の敵にされていて、ヤンキーを目の敵にしているスペイン語教師も面白い。彼女は基本的には良い教師だ。彼女は執拗にヤンキーに絡むので、ヤンキーを嫌っているかもしれないが、彼女なりの教育心の表れにも取れる。
取りあえずヤンキーはこの教師をめちゃくちゃ嫌ってる。嫌いすぎて嫌いすぎて、最後には切ない末路を迎える事になる。お互いがお互いを嫌ったままでは、大抵はろくなことにならない。

アレックスみたいな奴、いるんだよな。イキった陰キャ
いいか? お前は自分が無害だと思ってるかもしれないがメチャクチャうぜぇし、目障りだし、実際にお前の告発のせいで他人の人生がめちゃくちゃになってるんだぞ。
ディランがやったって? 間違いないって? お前、実際はフード被ってて顔が見えなかったんじゃねえか。何が体格が似ていただ? 何が勘違いしちゃっただぁ? クソが! 言い訳してんじゃねえ!
"人は思い込む。人は話を誇張する"。テーマが体現されたキャラだ。

そのアレックスを抜いてやったのが全生徒の憧れ、モデルみたいなべっぴんさんのサラだ。
彼女もメガネの”自己満映画制作”の被害者になった。暴かれる必要なんてなかったのに、彼女は秘密を暴かれた。サラは15人以上と関係を持ったふしだらな女性かのように放送された。そのせいで父親に死ぬほど叱られ、世間からの目を気にして生きて行かねばならなくなった。彼女の一件は、メガネに深い反省を促すことになる。
サラにもいいトコはある。パーティで中国人が飲み過ぎて倒れたら、真っ先に緊急措置を施した。人は単純ではない。そもそも股が緩いから、それがなんだ? そんなことで人をすべて判断するべきではない。だが現実は判断される。”人は偏見を持つ”。

ヤンキーの彼女、マッケンジー。ニコ生でちやほやされてるJKって感じだ。ヤンキーと付き合ったり別れたりを繰り返している。ヤンキーを振り回しているため、仲間の女からの評判はよくない。
こいつはニコ生で録画放送していて、事件の当日の犯行推定時刻にヤンキーが映るっていう決定的アリバイがあるのに提出しなかった。何故か? もちろん秘密があったからだ。"誰もが秘密を抱えてる"。
彼女はネットの向こう側の男と浮気していた。その最中にヤンキーが現れたがごり押しで隠せた。だからヤンキーに浮気がばれたくないマッケンジーはアリバイを提出しなかった。
ヤンキーの人生をめちゃくちゃにしても、守りたい秘密があったのだ。女に嫌われる女は彼女にするべきではない。……って簡単に済ませたらいいのだが、このドラマはそんな単純な結論になるようにしていない。彼女も色々複雑な事情を持つ、”世界にゆがめられたティーン”なのだ。第7話でメガネに問い詰められた時のマッケンジーの迫真の表情は、必見である。正直俺は泣いた。心を揺さぶられたのだ。

そして最後の紹介になるがクリスタというキャラがいる。演じてる女優は日本語のWikipediaまであるので一部では有名なのだろう。俺は知らないが。
こいつはやべぇ。一見普通だがネジがずれてる。アレックスみたいなのとはレベルの違う、ウルトラハイスペック優等生だ。学級委員長で、10個くらいクラブ活動してる。サッカーでは代表選手。
でもやべぇ。なにがやべぇって、マジでやべぇことだ。可愛いからって何をしても許されると思ってるタイプの女の子だ。常に何かに抗議してる。何かに抗議するために階段に洗剤かなんかを撒いて、自分で滑って骨折する。はっきり言ってキチガイだ。
物語の最期の最期で、メガネとサムによって、あやふやに終わりそうだった事件の、真犯人ではないかと推理される。彼女はとある技術を有しているとされていて、それが確たるアリバイだったのだが、先のパーティでその技術がない事が露呈されたためだ。真実は思わぬところから現れる。見逃してしまったら闇のままだった。だが、サムは見逃さなかった。メガネは最後にクリスタに追及する。そしてクリスタは、回答を避けて、逃げた。俺はドキドキしながら、全8話の旅を終える。俺は震えはじめ、結末を噛みしめる。


とてもメッセージ性の強い作りになっている。
だけど全然、押しつけがましさは感じなかった。メガネのピーターくんのリアルな心情の変化が描かれてきていて、自然だし、そもそも「チ○コ落書き事件」という元々の下らなさで中和されてるから。
現代日本にも通じる風刺が多くて、本当にリアルに感じられる。
日本にもディランはいるし、シャピロはいるし、アレックスもサラもいる。クリスタは流石にいねえかな。いたらやべえわ…んーでも、今ならいるのかな?
誰もが秘密を抱え、嘘をつき、誇張するし、偏見を持つ。世界が「虚構」の上に成り立っているという現実を、まざまざと見せつけられているのだ。何度も言うが、リアルなのだ。

無駄なシーンは一切ない。どうでもよさそうな描写が大切だったり痛烈だったりする。
どんどん事態がやばくなっていくから続きが気になる。
「hey」を「heyyy」にするとR-18な意味になるとか、どうでもいい雑学も身につく。
(それにしても思ったのがアメリカの高校ってすげえよな。プロムとかどんだけだよ。モーニングショー9とかもしっかりしてるし)

だから面白い。


シーズン2にもピーターとサムが出演するようだ。
ザ・タード・バーグラーなる人物を見つけろと依頼されたらしい。トレーラー見たが汚すぎてやばいと思った。大丈夫かコレ。
どうでもいいが邦題どうなるんだよ。○○高校う○こ事件簿とか? やべえだろ。これだからダセェ邦題なんかつけるなって言ってる。アメリカを荒らすヤツらとかで良かったと思うぞ。
とにかく来週がめっちゃ楽しみだ。待ちきれない。